この国の10年後,20年後は? 教育の”今”を読み解く 

先日読んだこの一冊の本に衝撃を受け、未だ立ち直れないでいる。
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階層化日本と教育危機 - 不平等再生産からの意欲格差社会へ
 苅谷剛彦・著 有信堂高文社・刊 3,800+TAX円

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 私は、今まで、「個性の伸長」という点で、「ゆとり教育」には肯定的な立場をとってきた。しかし、それが社会・家庭・経済等の環境に恵まれない階層の子ども達には、意欲を失わせ学力格差を拡大させる結果になっているという苅谷氏の提示するデータに愕然としたことと、このような本が2001年に出版されていたのにもかかわらず、今まで書名さえも知らなかったという二つの事がショックだった。

改めて、手元の本で教育にかかわる論議を読み返してみた。

☆ 「学力を問い直す ―学びのカリキュラムへ―」 佐藤学・著 岩波書店・刊 480+TAX円

で、佐藤学氏は、
 ・日本の小中学生の学力は、かつてより低下傾向にあるが、まだ世界のトップレベルを保っているが、大人の科学的な教養や関心は先進12カ国中最下位であること、つまり子どもより大人の教養衰退の方が遙かに深刻であること。
 ・大半の子ども達が学年を追うに従って勉強をしなくなる「学びからの逃走」が深刻化していること。
 ・「学びからの逃走」「学力低下」は社会的に低い階級階層ほど激しく進行しており、男子より女子に強く作用していること。
 を指摘している。
そして、「学力低下」問題は「学力低下」そのものよりも、それを巡る施策・政策の方により大きな問題があると主張する。


☆ 「学びから逃走する子どもたち」 佐藤学・著 岩波書店・刊 440+TAX円

では、まず、イメージが先行する「子どもの危機」について言及する。
・「いじめ」「不登校」「少年犯罪」「学級崩壊」等の教育の危機を、マスコミは報道するが、それは公式データから見ると、子ども達のほんの一部の危機でしかないこと。
・子どもたちを巡る本当の危機は「学びからの逃走」であること。
・「学びからの逃走」の根底には、モノや事柄、他者への無関心があること
 を指摘している。
そして、「勉強」から「学び」へと学習の質の転換がその解決策だと説いている。


☆ 「習熟度別指導の何が問題か」 佐藤学・著 岩波書店・刊 480+TAX円

では、「学校の塾化」、「教師の責任喪失」、「サービスへの傾斜」など、公教育の場において習熟度別学習がもたらすデメリットを挙げて「習熟度別学習」そのものに対して批判している。現場の教師からは、指導し易いと好評だが、今回の全国学力調査の結果はその効果を否定している。諸外国では総じてその効果を評価されている「習熟度別学習」が、なぜ日本では効果的ではないのか、非常に興味深い。


☆ 調査報告 「学力低下」の実態 苅谷剛彦/志水宏吉/清水睦美/諸田裕子・著 岩波書店・刊 480+TAX円

は、阪大の調査データをもとに、学力低下の実態、その階層による差の拡大傾向に警鐘を鳴らす。


☆ 公立小学校の挑戦 ―「力のある学校」とはなにか 志水宏吉・著 岩波書店・刊 480+TAX円

 は、どんな困難校でも「教師集団の頑張り」と「行政のサポート」があれば「ここまで出来る!」
という話。教員を質・量的に手厚く配当し、インセンティブを与えれば、地域固有の問題を抱えた学校でも立ち直る。当然予算面でも配慮されたであろう。でも、そのようなことが可能になるのはせいぜい全体の数%程度だ。その他の98%の学校はどうすれば良いか。「処方箋」が必要だ。その「処方箋」を書くのはだれだろうか。


☆ 「誰のための「教育再生」か」(新書 新赤版 1103) 藤田英典・著 2007年岩波書店・刊 700+TAX円

「教育再生」論議に批判的な立場をとっている6名の学者が、一連の改革論議を彼らの立場から検証し、学校現場を「真に再生する」方策を提言する。
 尾木直樹、佐藤学の両氏の主張は平素から様々な場面で述べていることの焼き直し。


☆ 「競争しても学力行き止まり イギリス教育の失敗とフィンランドの成功」 (朝日選書 831)
 福田誠治・著 2007年朝日新聞社・刊 1200+TAX円


タイトルの表現はいささか(?)と思うが。
 この本は、イギリス、フィンランド、日本、アメリカの教育を対比しながら、我が国の教育はどうすべきかを提言している。テスト、点数だけで子ども達を追っても決してよい結果は得られない。イギリスで失敗した方法を我が国は取り入れつつあるのだと。
 著者と我が国の為政者とでは、教育に求めるものが異なる。しかし、傾聴に値する論であることは事実だ。
 ひとつだけ気になるのは、著者の論の根底は、全ての子ども、親、教師について性善説を採っている点だ。残念なことだが、子ども、親、教師にもどうしようもない輩は少数だが存在するのが現実であり、それらの影響が無視できないレベルであることも事実だ。これらをいかにして排除(?)矯正(?)するかの方策も視野に入れた制度が必要だろう。


☆ 「欲ばり過ぎるニッポンの教育」 苅谷 剛彦, 増田 ユリヤ・著 2006年講談社・刊 740+TAX円

 広田照幸氏の「教育不信と教育依存の時代」に通じるものがある。
 私たち国民は教育制度にいつまで「青い鳥」を追い求めているのだろうか。
金、人、モノは減らし、仕事は増やす。そして、ひたすら待遇は下げる。
 今の我が国の教育政策はこのようなものなのだ。今、社会が教育に要求していることが全て満たされたら、家庭は必要ない。


☆ 「教師格差―ダメ教師はなぜ増えるのか」尾木直樹・著 2007年 角川書店・刊 72O円(TAX込)

 タイトルと内容とは余り関係がない。真っ当な教育改革案を提示している。ごく当たり前のことを地道にやるべきと説いているだけだ。
 テレビは学校教育をぶちこわすような内容の番組を流し、政治家・官僚は反面教師に満ち溢れている。そして、教師、学校批判のオンパレード。家庭ですべきことを学校に押しつけることは日に日に増えている。教育への要求は次々と増えて厳しくなるが、取り巻く環境は日に日に悪化するばかり。
 今していることは、若い父親が、泣きわめく子どもを静かにさせようとして、ビンタを張っているようなものだ。
 数十年後にこのツケは何倍かにして国民が払うことになるだろう。
 もちろん著者はここまでは言及していない。


☆ 「先生ってなにする人?―考える力とやさしさが育ったW学級の6年間」
 守屋慶子, 高橋通子・著 2007年 金子書房・刊 2000+TAX円


 W学級の6年間の教育実践の記録。 1年から6年までクラス変えもなく、担任も替わらなかった。その間の子どもたちの成長過程を克明に追う。
 特筆すべきは、リアルタイムの実践記録ではないことだ。卒業後かつての教え子が集まり、その歳月を振り返る。そこへ実践資料や班ノート、学級通信を織り交ぜ再構成している。当時ではなく、30年の歳月を経てから振り返った当時の気持ちだ。
 そこには、子どもとともにも悩み、育った教師と大きく羽ばたく子どもたちの生き生きとした姿がある。


☆ 「平等社会フィンランドが育む未来型学力」 ヘイッキ・マキパー・著 2007年 明石書店・刊 1800+TAX円

 PISAショックをきっかけに、フィンランドの教育が注目されている。そして、その教育制度に関する書籍も数多く出版されている。この本もその類の本だ。
 類書との大きな違いは著者がフィンランドセンターという同国の公的機関の所長が公的資料をもとに書いた本であるという点だ。
 公的資料を基に主観を排除して書いてあるので正確なことは言うまでもないが、面白味には欠けるし、新たな発見もない。
「教育の完全無償制」「少人数教育」「能力別編成」「教員の能力向上」「待遇・社会的地位の安定」を徹底すれば、かなりの問題はクリアできると思うのだが・・。
 現在の為政者は国の将来をどう考えているのだろうか。私たちは国の将来を、とんでもない輩に託してしまったのかもしれない。


☆ 「学力低下が国を滅ぼす」 西村和雄・著 2001年 日本経済新聞社・刊 1500+TAX円

 言い意味でも悪い意味でも、現在の我が国の教育論議を象徴するような本。
 確かに学力低下はあるかもしれない。しかし、その根拠を、日常の感覚やPISAの学力調査だけに求めたとしたら、それは根本的に間違いだ。
 現状を批判し、新たな提言をするには緻密な実態調査と現状分析が必要だ。
 社会構造の変化、児童の現実に目を向けずに、教科増、授業時間増だけで対応できると思っている点は現状認識が甘いと言わざるを得ない。正確なデータに寄らず、現場の実態を踏まえないままの教育論議は「大きな迷惑」以外の何物でもない。おじさま達の茶飲み話の中で重要な政策決定がなされるとしたら極めて憂慮すべきことである。


☆ 「希望格差社会―「負け組」の絶望感が日本を引き裂く」 山田昌弘・著 2004年 筑摩書房・刊 680+TAX円

 現代を読み解く重要な本を選ぶとしたら、間違いなくその中の一冊に選ばれるであろう本だ。神戸女学院の内田樹が著した「下流志向」と併せて読むと更に興味深い。
 若者の学習・労働からの逃走を、内田樹氏は彼らの思考行動から分析し、独特の解釈で説明しようとしているのに対し、著者は将来に希望を持てる人ともてない人との「希望格差」に視点を置いて説明している。
 最近、不可解で、犯罪としては犯人に何の利益ももたらさない凶悪犯罪が増えているが、その原因がこの希望格差にあるのだと。
 頑張ったものは報われるべきだが、弱者、敗者から希望を奪い取ってはいけないのだ。


☆ 「下流志向──学ばない子どもたち、働かない若者たち」 内田樹・著 2007年 講談社・刊 1400+TAX円

 「知に働けば蔵が建つ」の著者内田樹氏の教育・若者論は鋭い視点をがあり面白い。その最新作。 2005年6月25日の講演からテープ起こししたものだ。
 子ども・若者のの「学び」「労働」からの逃走がなぜ起きているのかを、目から鱗がとれた観のする理論で説明している。


☆ 「読解力」とは何か―PISA調査における「読解力」を核としたカリキュラムマネジメント 横浜国立大学教育人間科学部附属横浜中学校FYプロジェクト・編 2006年 三省堂・刊 1900+TAX円

 OECDが平成15年に実施したPISAの調査結果は、全国の教育関係者だけでなく、国民全体を震撼させた。中でも、「読解力(Reading Literacy)」の低下は人々の目を惹き「学力低下論」と相まって議論の的となった。この本は、生徒が読解力をつけることが出来るような授業を、いかにして行うかプロジェクト研究を進めてきた、横浜国大附中の実践を紹介したもの。もちろん、実践の記録が素晴らしいことは言うまでもないが、読解力の捉え方、PISA問題の分析、学校で作成した「読解力向上プログラム」等の部分は資料としての価値は高い。


☆ 「読解力」とは何か Part2 (2)
 横浜国立大学教育人間科学部附属横浜中学校・編 2007年 三省堂・刊 1900+TAX円


 前年に出版された同名書の続編。 今回は、理論編が少なく実践中心の編集をしている。


☆ 「学力―いま、そしてこれから」 山森 光陽, 荘島 宏二郎・著 ミネルヴァ書房・刊 2200+TAX円

 学力低下論争に参戦しているのは、どちらかというと門外漢の物理学者や教育社会学者である。教授法、学習過程、評価を研究領域としている教育心理学者達はこの問題をどう捉えどう解決していこうと考えているのだろうか。
 その回答の一部がこの本だ。


☆ 「教育格差絶望社会」 福地誠・著 2006年 洋泉社・刊 952+TAX円

 保護者の経済力、学歴、住む地域、通う学校によって子どもの受ける教育に差があることは否定できない。この本の価値は、「教育の機会均等」が幻想でしかなくなり「生まれによる属性」で決まるという現実と、諸外国に比べ教育費に占める公的負担が少ないという現実を、豊富なデータで実証的に論じていることである。
 また、格差が拡大、固定化することにより社会がどのように変化していくかを予測し警告を発している点だ。


☆ 「世界の教育改革〈2〉OECD教育政策分析―早期幼児期教育・高水準で公平な教育・教育的労働力・国境を越える教育・人的資本再考」
OECD, 経済協力開発機構・編 御園生純, 川崎陽子, 高橋聡, 稲川英嗣, 小杉夏子・訳 2006年 明石書店・刊 3800+TAX円


 OECD教育政策分析2002年度版の完訳書。
「早期幼児教育」「高水準で公平な教育」「教育的労働力」「国境を越える教育」「人的資源再考」の5章構成。素データと簡単な解説のみ、ある程度の知識がないと読み取りは難しい。


☆ 「どうする「理数力」崩壊 子どもたちを「バカ」にし国を滅ぼす教育を許すな」
西村 和雄, 松田 良一, 筒井 勝美・著 2004年 PHP研究所・刊 1600+TAX円


 学習塾経営者(精神科医)、経済学者、教養学部の教員がそれぞれの立場から見た現在の教育について支離滅裂に語る。一冊の本ととして見た場合、論旨にまとまりがないが、唯一、学力低下の原因として「ゆとり教育」への批判だけは一致している。
 確かに、子どもたちの学力は低下しているようには感じる。でも、それは本当に「ゆとり教育」のせいだけだろうか。学習内容を一つ前の指導要領に戻したら、子どもたちの学力は一昔前のように良くなるのだろうか。答えは「否」だと思う。


☆ 「教育格差―親の意識が子供の命運を決める」 和田秀樹・著 2006年 PHP研究所・刊 1200+TAX円

 自分の子の教育に無関心な親の意識を、がらりと変えるはずだ。中学受験の現状、東京都での私立等中学への進学率、中高一貫校の躍進と公立名門校凋落の背景等々既に明らかになっていることなのだが意外に知られていない事実に愕然とするかも知れない。


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2月15日、文部科学省から、次期学習指導要領の改定案が公表された。 
先には教育三法が改定され、教員評価、学校評価、教員免許更新制等々が4月から実施されていく。
 学校を巡っては、 ”いじめ” ”不登校” "学力低下" "安全対策" "モンスターペアレント" "給食費不払い" "学級崩壊" 等々の問題が指摘されている。

 リッチフライト、ブライトフライトの傾向が日本でも顕著になると、公立小中学校を巡る環境は更に厳しさを増す。「自分の子さえよければいい」このような考えが社会の大勢を占めたとき、公教育は崩壊し、恵まれない階層の子ども達には疎外感と諦めが拡がる。そして、それは社会全体を蝕んでいく。

 それは決して遠い将来のことではない。

教育三法や指導要領の改定は、果たして、今日的なこれらの課題の解決策となり得るのだろうか。
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by taketombow | 2008-02-16 19:39 | 私の本棚から  

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