「グローバル危機」を読み解く

2008.9.15のリーマン・ブラザーズ破綻を皮切りに、世界は大不況へと坂道を勢いよく転げ落ちていった。今までにも私たちは幾度かの不景気を経験し、その度に、様々な原因がもっともらしく取り上げられ説明されてきた。
 経済学の権威、金融・財政・経営のプロ、金融工学の専門家集団が揃っていたのに、なぜこのような道を歩んでしまい、過去の経験から学ぶ事ができなかったのだろうか。
 日経が4月5日から毎日曜日に「大収縮 検証・グローバル危機」という連載を始めている。

これがかなり面白い。下掲の画像は,その4月5日の紙面だ。この日はポールソン、ファルド、グロスなど政府、リーマン、市場のプレイヤーが、事態をどう捉えどう判断し方向を見誤ったのかを特集している。「市場はこの程度の衝撃なら吸収できるはず」「市場は自然に落ち着くはず」「政府は延命させるはず」という見通しがことごとく外れ、未曾有の危機へと突入していく様が描かれている。
 この特集は
4/12 ”産業の王”自動車沈む 昨年初めに異変の兆し キャッシュも需要も蒸発
4/19 「対岸」の欧州 瞬時に炎上 金融保護 域内が一斉に 中東欧に信用不安波及
4/26 電気が素材が日本が呑みこまれた 輸出立国の足元揺らぐ 風雲弓告げる業界再編
と続く。
 そのとき「事実がどうか」「真実はどうか」ではなくて、人がどう思うか、人がどう受け取ると予測するのか。これらが市場を支配したのだ。
 どのような高度な理論、思想があっても、現実に経済の方向を決めているのは、人なのだ。それを改めて思い知らされる。
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日経はこの他にも、4/22,4/23の「再考 金融危機の真相 (上・下)」で藤井眞理子、高安秀樹両氏の論文を掲載している。藤井氏は再証券化によってリスクが拡大したとし、「再証券化商品は個々の企業や証券のデフォルトのリスクをヘッジすることはできても、経済全体のリスクには脆弱」と指摘し、高安氏は「金融商品の流通が野放しになっていると指摘し、その販売に売り手責任を持たせることが大切」と主張している。

今回の深刻な世界的経済危機については以下の本も興味深い。

◇ 世界金融危機 開いたパンドラ 滝田洋一・著 日本経済新聞社・刊 850+TAX円

   当時、米州総局に勤務し劇的な展開の現場に居た筆者が、直接見聞きしたり関係者から聞いたりしたことを中心にまとめた現場報告。関係した当事者が、そのとき何をどう捉え、どう考えていたかが分かる。

◇ グローバル恐慌 -金融暴走時代の果てに 浜矩子・著 岩波書店・刊 700+TAX円

   もともと著名な経済学者だったそうだが、一般にはさほど知られていなかった浜氏を、一夜にして時代の寵児に祭り上げた名著。「金融"危機"」でなく「グローバル"恐慌"」であると本書の中で氏は主張したが、事態の流れは氏の主張通りに「金融」の世界だけに留まらず自動車を始めとした全ての産業・地域をも巻き込んだ"グローバル"な"恐慌"へと転げ落ちていった。サブプライムローン証券化の当初の意図は、リスクの分散・軽減だったが、リスクが広範化し全ての関係者に撒き散らされただけだった。

◇ 世界金融危機はなぜ起こったのか サブプライム問題から金融資本主義の崩壊へ 小林正宏/大類雄司・著 東洋経済新報社・刊 1,600+TAX円

   体系的にまとめられており割と理解易いが・・・・。
扱う内容の性質上仕方のないことだとは思うが、カタカナ語、アルファベットの略語、金融・投資の専門用語のオンパレードなので、これらに馴染みのない読者にとっては苦しいかも知れない。その点を意識してか、図表を多用し、随所にコラムを設け背景・用語の解説をしている。(その解説にも専門用語・略語が多いが)

物事を解説するのに最も分かりやすいのは、適切な「たとえ」「モデル化」だ。本書でも第五章「危機の本質はどこにあったのか」で「毒入り餃子」「メラミン混入」が招いた「中国食品」離れと今回の金融危機が招いた「ローン証券化」「サブプライム」「ヘッジファンド」離れを比較している部分が興味深い。どちらも、「ローン証券化」「サブプライム」「ヘッジファンド」「中国食品」が悪いのではなく、それらのリスクが適切に「公開」されなかったことが問題なのだと。公開された情報を元にリスク判断をするのは消費者(投資家)なのだが、適切な情報が無かったために、あたかも「全てがダメ」となってしまい混乱の火に油を注いだのだと。

◇ 世界大不況からの脱出 なぜ恐慌型経済は広がったのか ポール・クルーグマン・著 三上義一・訳 早川書房・刊 1,500+TAX円
 
   著者はノーベル経済学賞の著名な経済学者とのことだが、この本を読むと、その理由が十分に納得できる。
 とにかく分かりやすい。金融危機、経済危機がなぜ起きるのかが、実に分かりやすく説明されている。
 特に、「キャピトルヒル・ベビーシッター共同組合」のモデルを使った日本経済の説明は秀逸だ。「流動性の罠」に嵌った日本経済の問題点を見事に説明している。
 しかし、今、世界を覆っているこの事態がなぜおきたかは説明できるが、今回のような危機にはどう対処したらよいのか、処方箋は描かれていない。各国政府の規制から外れた陰の銀行システム、実体経済とは無関係に動く国際金融の社会、政府のコントロールが効かないほど巨大化した国際金融市場。
 極端に収縮した消費マインドを刺激するのは、将来に向けた「明るい展望」をメッセージとして発進するしかない。だが、今は「それが一番困難」なのだ。「嘘でもそれが事実を引っ張って真実となる」それが国際金融の世界だが、「もっともらしさのある嘘」さえつけないのが現状なのだ。

◇ 予見された経済危機 ルービニ教授が「読む」世界史の転換 倉都康行・著 日経BP・刊 1,700+TAX円

  2006年のIMF爽快で米国のリセッション(景気後退)入りの見通しを発表し、更にその規模までを物の見事に予測したねニューヨーク大学の ルービニ教授の主張を解説しながら、現在の世界経済が抱える問題点を指摘する。
 現在の世界経済の問題点は「最後の貸し手」の不在だ。それは相対的に米国の力が弱くなったこともあるが、世界経済が肥大しすぎたということもある。もはや、各国の通貨操作、金融政策は市場のコントロール能力を失いつつある。真剣な経済政策よりも「ダックテスト」(ある鳥があひるのように見え、アヒルのように泳ぎ、アヒルのように鳴けば、多分それはアヒルだろう。というような、あまり厳密でない帰納法)の方が遙かに市場を動かす力が強くなっている。
 その他にも、実態の不透明な中国経済、揺らぎ始めたIMF体制、危機に瀕している東欧諸国、ウクライナ、パキスタン等々、先行きは予断を許さないようだ。

◇ リスクをヘッジできない本当の理由 土方薫・著 日本経済新聞社・刊 852+TAX円

ノーベル経済学受賞者を2人も擁し高度な金融工学を駆使し最先端の運用をしていたヘッジファンド、LTCM。なぜ彼らが破綻したのか。その理由は単純だった。「真のリスクヘッジ」をしなかったからだ。未来は過去の延長線上のあるわけではない。その本質から金融市場が一か八かの博打のような性格を持っている以上、成功は単にツイていただけだ。そして、ラッキーなツキが永遠に続くはずがない。
 しかし、ツイていたトレーダーほど、そのツキを自分の技倆と誤解し実力を過信する。

 暗い夜道はなるべく歩かないようにする。防犯ベルを携行する。なるべく人通りの多い道を歩く。

実世界では、このようなリスクヘッジの行動を取っているのに、金融市場でそのような行動が取れないのは、このような過信と誤解からだった。

◇ 世界金融危機 金子勝/アンドリュー・デウィット・著 岩波書店・刊 480+TAX円

   (なるべく分かりやすくと)それなりに工夫の跡はあるが、結構読みにくいし分かり難い。
救いはこの薄さだけ。この程度のボリュームなら、ある程度読書力が有れば1時間もかからずに読み切れるので、アウトラインをとにかく短時間に叩き込みたい人にはうってつけの本だ。
 この著者は、テレビやラジオで解説をするとき(話し言葉のとき)の方は分かりやすいのに、活字になるとなぜ分かり難いのかを考えながら読んでみた。理由は専門用語だった。メディアの解説では、専門用語をなるべく使わず平易な言葉で語るが、本書では、略語、カタカナ言葉のオンパレード。
 その部分だけは覚悟が必要だ。まっ、略語の一つや二つ分からなくても、世界金融危機のアウトラインは掴めるが。

 唯一分かりやすかったのが、「ガス欠とオーバーヒート」の例え話。
 著者の話はどこでもいつでも暗い結論だけになりがちだ。救いは何処かにないのか?
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by taketombow | 2009-04-27 22:09 | ニースに接して  

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