(続)詳細を知りたい <体罰賠償訴訟>

最高裁の判決文が見つかった。
平成21(受)981
事件名    損害賠償請求事件
裁判年月日 平成21年04月28日
法廷名   最高裁判所第三小法廷
裁判種別  判決
結果     破棄自判

注 「破棄自判」とは、上告審で下級審の判決を破棄し、最高裁自ら判決を言い渡すことで、民事訴訟に置いては例外。多くの場合は、認定すべき事実が不足しているとして,「破棄差戻」となる。「事実を更に認定する必要がない」という言うことは、最高裁は判決文に書かれたこれらの事実は認めた上で、結論だけが違っていると判断をしたのだ。

 一部の家庭(だと思いたい)では、「しつけ」の名の下に、大声で怒鳴る、罵声を浴びせる、殴る、蹴る、張り倒す、戸外へ放り出す、食事を抜く、DVを目撃させる等々の体罰が日常的に行われている。毎日このような暴力に晒され、辛うじて生き延びてきた子どもたちが、教師の言葉だけの指導にそう簡単に従える筈がない。

 家庭では、大怪我をしない限り、相当な暴力も公認の「しつけ」とされてしまい、外部から救いの手を差し伸べにくい一方で、学校においては、例え、教師や児童への暴力、施設器物の損壊を防ぐためであっても、児童生徒への直接的な身体接触は、基本時には全て体罰とされてしまう。そして、原因となった児童・生徒の問題行動はさておき、教師の”体罰”だけがクローズアップされる。児童・生徒の人権を守るというのが基本的な目的なのだが、そう言う意味からも、教育現場での”体罰”は決して有ってはならないのだ。
 
 だから、家庭での体罰を根絶しない限り、現場の苦悩は続く。

しかし、この判決を巡って最も私の気に掛かったのは、体罰云々のことではない。
下の朝日の記事にもある「親と学校との信頼関係」だ。

なぜ、母親は告訴に踏み切ったのだろうか。(父親の存在は?)

判決文で確定した事実関係の概要は,次のとおりだ。

(1) 被上告人は,平成14年11月当時,本件小学校の2年生の男子であり,身長は約130㎝であった。Aは,その当時,本件小学校の教員として3年3組の担任を務めており,身長は約167㎝であった。Aは,被上告人とは面識がなかった。
(2) Aは,同月26日の1時限目終了後の休み時間に,本件小学校の校舎1階の廊下で,コンピューターをしたいとだだをこねる3年生の男子をしゃがんでなだめていた。
(3) 同所を通り掛かった被上告人は,Aの背中に覆いかぶさるようにして肩をもんだ。Aが離れるように言っても,被上告人は肩をもむのをやめなかったので,Aは,上半身をひねり,右手で被上告人を振りほどいた。
(4) そこに6年生の女子数人が通り掛かったところ,被上告人は,同級生の男子1名と共に,じゃれつくように同人らを蹴り始めた。Aは,これを制止し,このようなことをしてはいけないと注意した。
(5) その後,Aが職員室へ向かおうとしたところ,被上告人は,後ろからAのでん部付近を2回蹴って逃げ出した。
(6) Aは,これに立腹して被上告人を追い掛けて捕まえ,被上告人の胸元の洋服を右手でつかんで壁に押し当て,大声で「もう,すんなよ。」と叱った(以下,この行為を「本件行為」という。)。
(7) 被上告人は,同日午後10時ころ,自宅で大声で泣き始め,母親に対し,「眼鏡の先生から暴力をされた。」と訴えた。
(8) その後,被上告人には,夜中に泣き叫び,食欲が低下するなどの症状が現れ,通学にも支障を生ずるようになり,病院に通院して治療を受けるなどしたが,これらの症状はその後徐々に回復し,被上告人は,元気に学校生活を送り,家でも問題なく過ごすようになった。
(9) その間,被上告人の母親
は,長期にわたって,本件小学校の関係者等に対し,Aの本件行為について極めて激しい抗議行動を続けた。


事実認定を読む限り、当該児童への「適切な」指導は必須である。指導をしない教師が居たとしたら、それは無責任だ。しかし、今回の場合、「体罰」と認定するかどうかは別としても、その方法において「不適切」「行き過ぎ」な部分が有る点は否めない。言葉による「謝罪」程度のことはしている筈だ。
 なのに、「その間,被上告人の母親は,長期にわたって,本件小学校の関係者等に対し,Aの本件行為について極めて激しい抗議行動を続けた。」のは、なぜだろうか。

 このような事案では、いつも、問題のすり替えが行われる。

 教育の現場として、問題とすべきは、

(2) Aは,同月26日の1時限目終了後の休み時間に,本件小学校の校舎1階の廊下で,コンピューターをしたいとだだをこねる3年生の男子をしゃがんでなだめていた。
(3) 同所を通り掛かった被上告人は,Aの背中に覆いかぶさるようにして肩をもんだ。Aが離れるように言っても,被上告人は肩をもむのをやめなかったので,Aは,上半身をひねり,右手で被上告人を振りほどいた。
(4) そこに6年生の女子数人が通り掛かったところ,被上告人は,同級生の男子1名と共に,じゃれつくように同人らを蹴り始めた。Aは,これを制止し,このようなことをしてはいけないと注意した。
(5) その後,Aが職員室へ向かおうとしたところ,被上告人は,後ろからAのでん部付近を2回蹴って逃げ出した。


の部分である。この部分を指導したかったはずだ。この部分の指導はどうなったのか。母親の提訴により児童のこの行為そのものがうやむやになり(或いは正当化され)指導の機会を逸したり、或いは「僕は悪くない。悪いのは先生だ」と当該児童に誤解させてしまったりしたとしたら、最大の被害者はこの児童なのだ。

そのことを、この母親や学校関係者は気付いているのだろうか。

 事件から7年、この児童は既に中学3年になっている。どのような中学生となっているのだろうか。提訴により、周囲が見る目も変わっただろうし、地裁、高裁、最高裁と三度の裁判費用、弁護士費用の負担も重くのしかかってくる。また、判決文に記された当時の行動から推測すると、生育の過程で他者との接し方を学ぶ機会を逸したのか、或いは何らかの発達障碍等のハンディがあったのかも知れない。

 これを機会に、周囲から支援の手が差し伸べられること、支援の必要性に気付くことを期待したい。また、学校や地域社会とで信頼関係を築く努力の必要性に目覚めてほしい。


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朝日の本日(5/3)版に先日の最高裁判決に関する評価記事が載った。
概ね同感だ。

 体罰容認論者は「言っても分からない奴は殴らなきゃあいかんのだ!」と言う。(これは教師には殆ど居ないが、保護者には意外に多い)

でも、この考えは大きな間違いだ。

 言っても分からない(理解力がない。規範意識がない)子どもは、大人も同じだが、殴っても分からない。ただ「暴力」に従うだけだ。判断の基準が、「正しいor正しくない」ではなく、「痛いor痛くない」「怖いor怖くない」「損をするor損をしない」となっているからだ。

 暴力に従った結果、心の中には「反省」ではなく「怒り」「心の痛み」「恨み」のエネルギーが密かに蓄積され、いつかどこかで解放される時を待ち続ける。



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by taketombow | 2009-05-03 23:46 | ニースに接して  

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