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(続々)詳細を知りたい <体罰賠償訴訟>

 何らかの続報が出るのを待っていたが、判決以降ピタッと見かけなくなり、その間に、世は新型インフルエンザを巡る狂騒の只中にと突入していった。
 また、マスコミ報道は言うまでもなく、この事件を取りあげた多くのブログでは、「体罰」の「有無」「是非」を論じているが、私はこの母親が提訴にまで至った背景を考えてみたい。

 新聞報道、判決文と今まで知見をもとに、この事例を私なりの解釈をしてみる。得られた情報は極めて少ない。その上、警察・検察が間違え、裁判所が判断を誤る事があるのは、最近の足利事件の冤罪でも明らかだし、警察発表だけを鵜呑みにした大部分のマスコミ報道も当てにならないことはご承知の通りだ。それらをもとにし、残りの8割方は私の推論だ。
 あくまでも「このような可能性もある」と言う程度でご理解いただきたい。

 次の二つを前提条件とする。
1 この母親は子どもの教育に熱心な「ごく普通の母親である(であった)」とする。
「躾」らしい「躾」もしない「放任」の家庭であったり、最初から「経済的利益(金銭)」を目的とした、いわゆる「クレーマー(何かと言いがかりをつけて相手の右往左往する様を見て快感を得る)」だったりではないこと。
2 この児童(当時小2)は、当時「軽度発達障害」かそれに極めて近い傾向をもっていた、「自閉症スペクトラム」の範疇に入っていたこと。しかも、そのことを保護者は知らない(或いは受け容れない)し、学校も知ら(或いは保護者に知らせられない)なかったこと。

1 の根拠はこうだ。
 「放任」の家庭であったら、「訴訟」というような面倒なことはしないだろうし、金銭目当てなら、350万円という金額よりももっと現実的な取得可能な金額を請求するだろうし、高裁での勝訴段階で賠償金額が20万円に減額されたとき、それを不服として母親側からも上告している筈だ。地裁、高裁段階での上告は全て市教委側からなされている。提訴以降、母親側から積極的に争う姿勢は見られないのだ。
 PTSDまで持ち出し、訴訟費用が嵩むことをも顧みず、法外な金額を請求する姿には、「自己の規準から外れた物は決して許さない」という硬直した「生真面目」すぎる母親の姿が浮かんでくる。また、家庭環境の詳細は伝わってこないが、一人親家庭だとしたら、地域社会から孤立している、2人親家庭だとしたら、地域からの孤立に加えて、父親からも見放された寂しい母親像が伝わってくる。

2 の根拠は、小学校2年生としては、以下の部分の行動違和感を覚えるからだ。
 判決文によると、児童と当該教師とは面識がないという。
 なのに、
・A(当該教師)はだだをこねる3年生の男子をしゃがんでなだめていた。同所を通り掛かった被上告人(当時小2の当該児童)は,Aの背中に覆いかぶさるようにして肩をもんだ。Aが離れるように言っても,被上告人は肩をもむのをやめなかった。
 この部分から「自分の気持ち優先で、相手の気持ちを汲むことが苦手」という「自閉症スペクトラム」の特徴が見られる。
 さらに、
・その後,Aが職員室へ向かおうとしたところ,被上告人は,後ろからAのでん部付近を2回蹴って逃げ出した。
 のは、小2として通常よく見られる行動ではない。明らかに通常の域を脱している。自分の行動を制止されたため高ぶった感情を抑えることができなかったのだろう。

この背景を私はこのように推測する。

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児童は、何らかの発達障害をもっていた。
しかし、知的には殆ど問題がなかったので、保育園(幼稚園)時代は、単なる躾の問題だと親も教師もとらえていた。
 物を壊したり、他の園児に暴力を奮って怪我をさせても、躾のなっていないやっちゃ坊主、乱暴な子として、叱り、保護者に注意し保護者を指導していた。保護者はその度に、園に出向き謝罪し、相手の保護者に頭を下げることが繰り返されていた。
家庭でも、同様な問題行動が見られた。言葉で何度言っても、一向にに効き目がないので、家庭での躾はエスカレートし、怒鳴る、罵る、叩く等の体罰が日常的に行われるようになった。その結果、家庭での問題行動は減り、表面的には「よい子」になった。しかし、連日の体罰、罵声、罵り等の「マルトリートメント」(不適切な養育・一種の児童虐待)によって子どもの自尊感情はずたずたになり、「愛着障害」を発症していた。そして、家庭内では猫を被り大人しくしている分、外での問題行動は更にエスカレートしていった。
問題行動を起こし、学校へ度々呼びつけられ謝罪し、相手方の家庭で謝罪することが度重なった。学校で家庭での躾の不足を指導され、謝罪先家庭で親の責任を詰られ罵声を浴びせられることを繰り返す内に、母は親の心の中に次のような疑問が湧いてきた。
 「家ではこんなによい子なのに、外へ行くと度々問題を起こすのは何故なんだろうか。私の言うことはちゃんと聞く。それなのに、学校で先生の指導に従わないのは、先生の指導が悪いのだ。先生の指導力が欠けているのだ。それに、先生が家の子だけを特別視して差別するからもこのような行動を起こすのだ。それを見て他の子どもやその親が、家の子だけを差別しているんだ。」
 「家では、私の言うことをきちんとするし、手伝いも素直にする。悪いのは家の子ではないし、勿論私でもない。みんな、学校が悪いんだ。」

 その矢先に、あの事件が起きた。

 母親は、その思いを繰り返し執拗に学校へ訴えたが、自分の納得のいく回答は得られなかった。学校を懲らしめ子どもを守るために可能な限り高額の損害賠償裁判を提訴した。
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 仮に、「愛着障害」だとすれば、周囲が真摯に対処しない限り、その予後は余りにも暗い。

子ども虐待という第四の発達障害 (学研のヒューマンケアブックス)  杉山登志郎・著 学習研究社・刊 1,700+TAX円
羊泉社MOOK アキバ通り魔事件をどう読むか!? 羊泉社MOOK編集部・編 羊泉社・刊 800+TAX円
親の愛は、なぜ伝わらないのか!? 佐久間真弓/藤崎りょう・著 宝島社・刊 1,330+TAX円
「少女監禁」と「バスジャック」 マスコミ報道と精神医療 月崎時央・著 宝島社・刊 700+TAX円
見えない虐待 廣中邦充/杉山由美子・著 日本放送出版協会・刊 700+TAX円
暗い森 神戸連続児童殺傷事件 朝日新聞大阪社会部・編 朝日新聞社・刊 560+TAX円
「少年A」14歳の肖像 高山文彦・著 新潮社・刊 400+TAX円
「少年A」この子を生んで・・・・父と母悔恨の手記 少年Aの父母・著 文藝春秋・刊 515+TAX円
心からのごめんなさいへ 一人ひとりの個性に合わせた教育を導入した少年院の挑戦 品川祐香・著 1,900+TAX円
「よい子」が人を殺す―なぜ「家庭内殺人」「無差別殺人」が続発するのか 尾木直樹・著 青灯社・刊 1,800+TAX円
「新潮45 2007,1月号」 懲役14年板橋両親惨殺爆破「十五歳少年」が彷徨う王国 新潮社・刊

「親の愛は、なぜ伝わらないのか!?」の中で、「国立生育医療センター・こころの診療部」の奥山眞紀子氏はこう言っている。

「愛というものは関係性の中で成り立つものですから、いくら親が『自分は子どもを愛している』と思っていても、それが子どもに伝わっていなければ、それは愛とは言えないんじゃないかと思います。『私』の中だけで存在する愛情は『愛』というものの大きさや質と似て非なるものではないかと・・・・・・」


「愛着障害」とその参考文献については、過去のエントリー
ADHDと愛着障害
 で触れているのでそちらも参照されたい。

※ ここで、強調しておきたいのは、「軽度発達障害」といわれる「ADHD」「アスペルガー症候群」「高機能自閉症」「LD」だから、このような事件を引きおこしたのではないことだ。むしろ、このようなハンディを抱えながら、周囲の理解と協力そして本人の努力によって、立派に社会参加どころか、見事な業績を上げている人は数多くいる。
 問題なのは、これらの障碍に気付か(事実を受け容れられ)ずに、子どもにマルトリートメントをすることによって「愛着障害」を引きおこしてしまい、それに適切な療育を受けられなかった場合なのだ。


子どもとその保護者への支援に関しては以下のような本が参考になる。

子ども虐待時代の新たな家族支援 ファミリーグルーブ・カンファレンスの可能性 林浩康・著 明石書店・刊 3,000+TAX円
虐待された子どもへの治療―精神保健、医療、法的対応から支援まで 精神保健、医療、法的対応から支援まで ロバート・M・リース・著 郭麗月・監/訳 明石書店・刊 6,800+TAX円
子育て支援と世代間伝達―母子相互作用と心のケア 渡辺久子・著 金剛出版・刊 3,200+TAX円
MINERAVA 福祉ライブラリー91 ヒューマンケアを考える さまざまな領域からみる子ども学 月形昭弘・著 ミネルヴァ書房・刊 2,400+TAX円
家族「外」家族 こどものSOSを診る医師たち 椎名篤子・著 集英社・刊 1,300+TAX円
子どもが育つ条件 -家族心理学から考える 柏木惠子・著 岩波書店・刊 740+TAX円
被虐待児の精神分析的心理療法  タビストック・クリニックのアプローチ メアリー・ボストン/ロレーヌ・スザー・編/著 平井正三/鵜飼奈津子/西村富士子・監/訳 金剛出版・刊 3,400+TAX円

「軽度発達障害」に限定すると
家族・支援者のための 発達障害サポートマニュアル 古荘純一・著 河出書房新社・刊 2,500+TAX円
ADHD?アスペルガー症候群のある子と親のためのポジティブライフガイド 自信と勇気を育む26章 石川真理子・著 明石書店・刊 2,000+TAX円
教師のための高機能広汎性発達障害・教育マニュアル あいち小児保健医療総合センター 杉山登志郎/大河内修/海野千畝子・著 少年写真新聞・刊 1,400+TAX円
発達障害のある子の困り感に寄り添う支援 -通常の学級に学ぶLD・ADHD・アスペの子どもへの手立て 佐藤曉・著 理論社・刊 1,800+TAX円
教室の中の気がかりな子 中村圭佐/氏家靖浩・著 朱鷺書房・刊 2,200+TAX円

by taketombow | 2009-06-07 13:24 | ニースに接して  

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