オダマキ
庭に咲いたオダマキの花が、散りそうになっている。
いつしか、季節は春から初夏へと遷り変わった。
芋環(オダマキ)というのは、麻糸を中が空洞になるように巻いたものをいうそうだ。花の形が それに似ていることから、この花はオダマキという名を貰うことになる。
私が初めてオダマキと出会ったのは、南アルプス甲斐駒ヶ岳の登山の時だった。
まだ、就職したばかりで20代後半だった。自然保護運動がようやく高まり始めた頃で、南アルプスのスーパー林道工事についても「自然破壊だ」と強硬な反対運動が展開されていた。
そのため、工事は半ば完成していたものの、開通の見込みはまだ立っていなかった。
広河原で車を降りて、山肌を荒々しく削っただけの林道を、ずしりと重い荷を背にひたすら北沢峠へと向かう。
峠の手前近くで林道は切れて本格的な山道となる。それを更に少し歩き北沢峠に着く。北沢峠から仙水峠へ向かう樹林帯の中に仙水小屋はある。
仙水小屋へ向かう登山道の片隅に、それはひっそりと下を向いて咲いていた。多分ミヤマオダマキだったとおもう。薄碧の花弁は緑の葉の間に隠れるように開いていた。
相当にバテて、仙水小屋についた後、何も覚えていない。当時としては相当高かった小屋の1000円の弁当は、白飯の真ん中にアマゴの甘露煮がどんと載っていたことが記憶に残っている。
それと、緑の中にひっそりと咲いていた美しい花のことも。下山後に図鑑で調べ、花の名はミヤマオダマキだと知った。
仕事も、山も、恋も全てに必死だったあの頃。
樹林帯の叢で咲く花に、憧れていた人の面影を重ねていたのかも知れない。
その女性の姓が変わったのは秋になってからのことだった。
by taketombow | 2007-04-30 01:22 | 雑感