地下鉄ホームの白い杖
乗ろうとするホームの案内放送が始まったのとほぼ同時に、反対側ホームに電車が入り、開いた扉から大勢の人が外へ吐き出された。
人波がすうっと引いた後に、カチカチいう床を叩く音がする。
年老いた2人連れの男女がホームの端から中央にある階段に向かって歩いてくる。先に歩いてくるのは、グレーのブレザーにチェック柄のスラックスをおしゃれに着こなした男性。軽めのショルダーバッグを肩にかけ、黄色い点字ブロックの上を先にさっさっと先に歩いていく。ホーム中央のエスカレーターを通り過ぎてホームの反対側の端まで向かいそうだ。後から、荷物を背中に背負い白い杖を持った女性が小走りで追いかける。
「お父さん、違いますよ!出口はここですよ」
白い杖でこつこつと床を叩き音で婦人が知らせる。男性は立ち止まり何やら怒鳴っているが、内容は聞こえない。やっと追いついた女性は男性の腕を捉まえてエスカレーターのところまで連れていく。何やら文句を言いながら、それを振りほどこうとする男性。
やにわに、肩にかけていたショルダーバッグを下へ落とした。ちょうどエスカレーターのステップにのり、ショルダーバッグは上へと運ばれてしまう。それを肩を落として見送る女性。
遠くなので表情は見えないが、全身がその気持ちを物語っていた。
私の乗った電車の扉が閉まるまでの、ほんの短い時間に繰り広げられた光景だ。
目がご不自由なのは、白い杖を持っていた女性ではない。男性の方だったのだ。
多分、何らかの理由による中途失明なのだろうか。
突然やってきた余りにも厳しい現実を、受け容れられないでいる夫。
夫の落胆が自分のことのように分かり何とかしてあげようと必死な妻。
私は、そんな構図を頭に描いた。
彼が自分の手に白い杖を持ち、一人で外出するようになるのは、何時のことだろうか。
後期高齢者医療制度。
通常は75歳以上から加入なのだが、障害者からは、65歳から徴収している。
強者に対しては下手に、弱者には高圧的に、少数の富裕層より、多数の貧困層
対象に、取りにくいところよりも、取りやすいところから。
これは、資本主義社会において、企業が生き残るための原則だ。
この原則を最も忠実に実施しているのは、我が国の為政者かも知れない。
勿論、私たちが正当な選挙で"真剣に"選んだ"真っ当な"政権だ。
今週の読書ノート(~6月15日)
by taketombow | 2008-06-13 20:41 | 雑感